神鳥の卵 第18話


賑やかな音楽、楽しげな笑い声、小さな子供たちがいささか興奮し頬を赤らめ、今か今かとその時を待っている姿は、素直に可愛いと思う。子供たちにとっては、とても親しみのある見慣れた大人が二人そこにいて、その二人に構って欲しくてべったりとくっついている子供までいる。
やがて音楽が切り替わり、この場を仕切っている男女がこちらを向いた。

『さあ、テレビの前の皆も』
『おにいさんと』
『おねえさんと』
『『一緒に踊ろうね!』』
「ほら、踊るよルルーシュ!」
「ぁぅぁ~ぅぁ~!ぶぅっ!」

嬉々とした笑みを浮かべる青年が、赤ん坊の体を支えるのだが、等の赤ん坊はいやだいやだと首を振った。「ふざけるな!俺を馬鹿にしているのかスザク!!」と、端から見ていても解るほど怒っている。
音楽はさらに進み、おにいさんとおねえさんの声に合わせ、小さな子供たちが一生懸命踊っている姿はとても微笑ましかった。だが、こちらの赤子は踊らせようとしても、イヤダイヤダとじたばたと暴れるだけ。「ほら頑張ろう?君にも出来るって」とスザクは笑顔で言っているが、本人のやる気が0なのだから無駄なことだ。
そんな二人を気にすることなく踊りはどんどん進み、画面の映像は一生懸命楽しそうに踊る子供たちを映し出していく・・・そう、今二人がいるこの場所には大きなモニターがあり、その映像に合わせて踊らせようと試みていたのだ。
いわゆる子供向け番組で、歌に踊りにゲームに人形劇と、幼心をくすぐる番組が放送されており、戦争で国を無くした8年間以外で育った子供たちは必ずといっていいほど見ている長寿番組だった。

「こら、ルルーシュ。なんで踊らないんだよ」

ルルーシュが息を切らせるほど全身で拒絶している間に、とうとう音楽は止まり、ぬいぐるみを使った人形劇が始まった。それを見て、勝ち誇った笑みを浮かべたルルーシュに、スザクはため息をついた。

「だから言っただろう、無駄な事だと。大体、あそこで踊っているのは3歳以上だろうに、ルルーシュはまだ乳飲み子だぞ」

二人の後ろのソファーに寝転び、呆れたように言ったのはC.C.。
端から見れば、休日に張り切って我が子の相手をしたが、子供に全身で拒絶された父親と、休日ぐらい子育てから解放されたいとだらけてる母親の図なのだが、本人たちはそれに気づいていない。

「解ってるけど、ルルーシュは体力が無いから、今から運動した方がいいんだよ」

それに、このルルーシュは体が弱いらしいから、余計に体作りはしておきたいのだというのだが、本人にやる気が無いのに無理を通した所で意味はないだろうと、C.C.は蔑むような視線を向けた。
話題の乳飲み子ルルーシュはというと、全力で拒絶した結果疲れきって床に転がっている。毛足の長い絨毯はふかふかなので、「疲れたし、もうこのまま眠ってしまおうか」と、うとうとしながら考えているとスザクに抱きかかえられてしまった。

「見てよこのルルーシュ。はいはいも碌にしないし、立とうともしない。こんなんじゃ、体力なんてつかないよ!」
「お前がそうやって抱いて運ぶからだろう」

ルルーシュが動こうと思う前に、近くにいる誰かがルルーシュを抱えて運んでしまう。だからルルーシュは動く必要が無いだけだと指摘するが、スザクはあっさりと言った。

「僕はいいんだよ」
「・・・」

C.C.は心底呆れたが、納得したと勘違いしたスザクは爆弾を一つ落とした。

「それにしても、ルルーシュ、君はこんな簡単な踊りも踊れないんだね」

憐れむような物言いに、ルルーシュは当然、カチンときた。「踊れない?俺にダンスが出来ないとでも!?」ダンスぐらい踊れる!というルルーシュの言う事などまるっきり信じていない顔をしたスザクは「はいはい、そうだね、きみはダンスが上手だよ」と言いながら、暴れた事で汗をかいたルルーシュを連れて浴室へ向かい、咲世子が入れ違いで浴室から出てきた。踊って汗をくだろうルルーシュのために、咲世子が湯浴みの用意をしていたのだ。
スザクがいる間は、頑なに自分の世話をスザク以外にさせないルルーシュだ。その理由は羞恥心だが、スザクは自分はルルーシュに頼られている、ルルーシュの二番は僕なんだ!(1番は不動のナナリー)と、優越感があるため、ここにいる間に出来る事は全てしていこうとする。湯浴みもその一つだ。

「咲世子、スザクの予定はどうなっている?」
「はい、1時間後に外出された後、ナナリー様と中華へ向かわれます」
「ああ、今回は中華か」

超合集国議会開催国は持ち回り制だ。
合衆国中華へ行くなら、2.3日は戻れないだろう。

「咲世子、今から用意は出来るか?」

C.C.はにやりと魔女の笑みを浮かべた。

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